吉田悦志ゼミナール 明治大学国際日本学部

Etsushi Yoshida Seminar

今週のゼミ記録(後期第11回)

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 先週分さぼってしまってすいませんでした。ちょっと日が経ってから書こうとしたら、頭の中で全然まとまらなかったんですよねー。

 今週は書きます。

 今週の課題は吉村昭さんの『桜田門外ノ変』上巻でした。ちょうど一カ月前ぐらいにみんなで映画を見に行った作品でもありますね。

 まあ、桜田門外ノ変という事件そのものは作品の中で描かれているわけなので、レポートは井伊直弼について。ホントはもう数冊の本から情報集めたり、事件の大元とも言える「水戸学」についても調べたかったんですが・・・いかんせん急仕上げだったもので。来週余裕があったらその辺に関してもレポートー作ってくるかもしれないです。

 個人的には井伊直弼がどういう生涯を送ったのかを知ることで、彼のイメージがガラリと変わったんですが、みなさんはどうだったでしょうかね。議論していた感じだと、少なくとも独裁的で愚かな井伊直弼のイメージはなくなったのかなと思います。

 身分制度への固執や、幕府中心主義はたしかにあるものの、彦根藩主としての藩政改革は立派ですし、彼の独断だと言われるような開国や条約調印の問題も決して彼一人での判断ではなかったことを考えれば、中学や高校で習ったような“悪の親玉”的評価は、その後の歴史の流れ・結果だけから判断した軽率なものと言えるのではないでしょうか。

 

 また、井伊直弼という人物を考える時に、レポートにも書いたように彼が生涯好んだ「柳」というものには注目すべきかな、と思います。というか、僕は参考にした本を読んだ時にそう感じました。

 柳も木なのでもちろん根がしっかりと張って、幹もきっちり立っているわけですよね。しかし、あの特徴的な枝葉は、「柳に風」と言われるように、風を受け、それに逆らうことなく流れる、と。これを井伊直弼に当てはめると、「幕府を強くしよう」という信念、根幹をしっかりと抱いているものの、頑なにはならず時勢や環境の変化に対応していく柔軟性を持っていた、という風にも考えられます。

 それをふまえれば、事実として圧倒的な軍事力を有していた外国に対して開国を認めたことも、一言「弱腰」とかたづけることはできないのではないでしょうか。その他の政治的判断もこういう考え方に基づいたものだと考えれば、その判断が成功したかどうかは置いといて、彼が愚鈍で言われるがままの大老だったという評価はできないと思います。

 たしかに、そこが焼け野原になっても毅然として立っているような木、新撰組のような信念を貫く生き方やそれに伴う決断もとんでもなくかっこいいと思います。が、日本人が柳を見て「風流だねえ」と言うように、自分の信念は持ちつつも、柔軟に対応・判断をしていく生き方もとってもかっこいいし、そういう決断をすることも、信念を貫くことと同じぐらい重く難しいことなんじゃないかと思います。(だから、僕は「慶喜かっこいい」と思うんですよね。)

 こういう風に一人の人物に対しても、どんな知識を持っているか、どういう視点から見るか、評価する自分自身の価値観はどんなものかによって、様々な見方や評価が下せるのは歴史の面白さであり、難しさかもしれませんね。 しかも、幕末っていう時代は、時代の混乱と同じように、様々に評価できる人間がグチャグチャと言ってもいいぐらいたくさんいて、しかも、その各人物たちへの評価や見方が、また他の人物の評価や見方に影響を与えたりするから、またグチャグチャしてややこしい。でも、そこを色々な視点を持って考えていくことが面白いし、もっと言えば、評価なんかを置いといて考えても、人物それぞれの信念とか考え方、生き方っていう部分がとてつもなく奥深い。そういうことを考えているだけでも楽しい。

 で、肝心の桜田門外ノ変については、殺された井伊直弼の評価が難しい、というか色々な見方ができ過ぎるおかげで、議論の中ではうまく話がまとまらなかった所がありましたか。一時は「桜田門外ノ変なんて、もっと言えば大政奉還、明治維新なんてなくたってどうにかなったんじゃないの」という全てをひっくり返すような話にまで飛躍しましたものw

 しかし、先生が言っていた「結局、天皇を神の如く扱う水戸の尊王論と、天皇を幕権の一つの根拠として扱う幕府側の尊王論、二つの思想のぶつかり合いで起きた事件」というのはまさしくだと思いますし、そういう自分の思想のぶつけ合い、意地の張り合いみたいなレベルから脱し、日本という国のことを考えていた龍馬や勝のレベルからすれば、「この事件は体制内闘争」にすぎなかったのも事実かなと思います。

 とは言え、この事件がその後の維新への大きな流れのきっかけになったことはたしかですし、水戸的な尊王論の先に、薩長の討幕論、さらには龍馬の大政奉還論が出てくるっていうのも自然に考えられることなので、やはりこの桜田門外ノ変という事件自体が、井伊直弼同様、見方によっては評価の変わりかねない、難しい事件ですね。

 ま、その辺も含め来週は下巻までみんなにしっかり読んでもらって、もうちょっと議論できたらいいかなと思います。

 

 ちなみに、再来週23日は授業あるから。課題は池波正太郎さんの『西郷隆盛』です。

須山。

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