こんばんは。ゼミ長の須山です。
そいえば、3年も見るなら自己紹介もすれば?って話でしたね。一応ゼミ長をやっていますが、他のゼミ員に支えられながらやっています。いつも協力ありがとう。個人的には議論の中で誰よりも発言をすることでゼミを活発にできればと思っているんですが、よく「黙れ」と言われるぐらい喋ってしまいます。この一年色々と読んできて、最も印象に残った人物は河井継ノ助。次点で慶喜かな。司馬さんの『峠』は是非3年生にも読んでほしいですね。
というところで、今日の議論をまとめましょう。ゼミ始まって以来と言っていいほど、中身のある議論になったと思います。こういう日こそ3年生にちょっと見て行ってもらいたかったなー、なんて。
まず、『一刀斎夢録』下巻に描かれているこの物語の主題「殺すは易く、生かすは難い」ということを巡って議論は盛り上がりました。一刀斎は自らの人生を語り聞かせることによって、梶原に対して「殺すは易く、生かすは難い」ということを示したのは明確ですが、ではそれは何のためにだったのか、そして、梶原はその話を聞くことによってどうなったのか。そこが大きな問題点でした。「斎藤が梶原に伝えた、勝つこと負けることの意味とは」「なぜ梶原の目には山縣が「力なく蹲る老人」にしか見えなかったのか」という議題をもとに、その問題について話してみたわけです。
「殺すは易く、生かすは難い」という観点から言えば、鉄之助を殺してしまった斎藤は負け、鉄之助が勝ちであるということはその言葉の直後に語られています。これをこの物語に登場する他の人物にも当てはめてみれば、勝者には鉄之助、西郷、土方などが入り、敗者には斎藤や山縣が入ることになるでしょう。
なぜそうなるのか。それは勝者となった人物が、何よりも難しい「生かす」ことを成し遂げ、結果的に他の誰か・何かのために死んでいった者たちだからです。それを最もよく表しているのは、この本における西郷と山縣の関係でしょう。旧時代の象徴として反乱軍を率い、自己犠牲によって新時代を確固たるものとした西郷は英傑として描かれている一方で、その西郷を倒し、まさに新時代を切り開いた張本人であるはずの山縣は敗れ果てた「力なく蹲る老人」として描かれているわけです。まさに、新時代を生かした西郷が勝者であり、旧時代を殺した山縣が敗者になっています。
しかし、ここまで論じてみると疑問が湧いてきます。「梶原が榊吉太郎との試合に勝ったら、梶原は「殺すは易く、生かすは難い」という意味において“敗者”になってしまうのではないか?」ということです。しかし、この疑問についての考えていく中にこそ「何のために一刀斎はこんな話を梶原にしたのか」という問題に対する答えが隠れていました。
結論から言ってしまえば、一刀斎は梶原を単なる“敗者”にしないために「殺すは易く、生かすは難い」ということを語り示したんだと言えます。“敗者”である斎藤や山縣は、自らの手で“勝者”を殺した後にやっと「殺すは易く、生かすは難い」ということに気付き、自分達が“勝者”に生かされた存在であることを実感したのでしょう。だからこそ、斎藤は彼には似合わない罰のような人生を辿り続けることになり、山縣も「力なく蹲る老人」になりました。そして、そんな二人が梶原を見つめる視線はよく似ていたのです。彼らは自分達が“敗者”になってからやっと気付いたことを、これから勝負をすることになる梶原に知っておいて欲しかったのではないでしょうか。山縣は西郷の銅像を作ることによってそれを示しました、斎藤は自らの口でそれを示しました。「殺すは易く、生かすは難い」こと、勝負に勝ち、生かされた者が背負うことになる“勝者”の想いや重み。そういったものを知った上で、なおそれを背負う覚悟を持って梶原が榊に勝つ(真剣勝負ならば殺す)のならば、それは斎藤や山縣とは全く違います。そこにこそ大きな意味があり、梶原は“敗者”ではなくなるのです。
また、榊吉太郎の存在は斎藤一と被ります。天下無双の剣士であり、一刀斎から「殺すは易く、生かすは難い」ことを学んでもいません。まさに、鉄之助を斬ってしまうまでの斎藤一です。「追い詰められて身じろぎもままならなくなった者」という描写からも、鉄之助を追いかける斎藤がイメージされます。梶原はその榊に勝つことで、同時に斎藤一という存在にも勝つのだと言えるのかもしれません。そして、それは一刀斎から見れば、あの時生かされた斎藤一という存在、多くのものを背負わなければならなくなる斎藤一という存在が、ついに殺された(誰かを生かした)ということだと言えます。しかも、「殺すは易く、生かすは難い」こと、“勝者”の存在を知った相手に。一刀斎にとってこの勝負は、斎藤一の存在と一刀斎が背負った罰のような人生の清算にもなったのかもしれません。
こんなもんでしょうか。ラストの部分は自分の考えも加わっています。
とりあえず、議論で話されたことは書いたつもりです。ただ、やはり長く、わかりにくくなってしまいました。すいません。今日はもう遅くなってしまったのでここまでにしますが、また更新していくかもしれません。だけど、これぐらいまとめがいのある議論がこれからもできればいいと思います。
来週は『世に棲む日々』1巻です。
では。